名将は・・
★★★ 連合艦隊司令長官 東郷平八郎 ★★★
~~~~ 省略 ~~~~
濃霧ではいけない、ということを真之はむろんわかっていた。霧にまぎれてバルチック艦隊が逃げてしまう可能性が大きくなるからである。
しかし晴朗でもいけなかった。
晴朗ならばロジェストウェンスキーは遠距離において東郷の艦隊を発見するであろう。とすれば針路を変えて逃げることも不可能ではなかった。
現実に両軍が衝突したときは、蒙気がなお残っていた。このためバルチック艦隊が東郷の艦隊を発見したときは、すでに抜きさしならぬ近距離になってしまっていたのである。
ロジェストウェンスキーにすれば全力をあげて戦闘をする以外になかった。晴朗というよりもむしろ薄霧であったことが東郷の艦隊に幸いした。
「東郷は若いころから運のついた男ですから」
というのは、山本権兵衛が明治帝に対し、東郷を艦隊の総帥にえらんだ理由としてのべた言葉だが、
名将ということの絶対の理由は、才能や統率能力以上に彼が敵よりも幸運にめぐまれるということであった。
悲運の名将というのは論理的にありえない表現であり、名将はかならず幸運であらねばならなかった。
「坂の上の雲」 司馬遼太郎 より
(愛知万博「愛・地球博」!)
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